診断と治療

Q1 即時型食物アレルギーの診断はどのように進めれば良いですか?
食物アレルギーにはいくつかの臨床型(臨床分類 Q1)があり、どのタイプかによって診断の方法が異なります。ここでは、即時型症状を来すタイプについて説明します。食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎については、臨床分類 Q3を参照してください。
食物アレルギーは、①特定の食品によりアレルギー症状が出現し、②特異的IgEの検出などによって免疫学的機序を介している可能性があること、の両方が確認できて初めて、食物アレルギーと診断することになります。
最も大事なのは、詳細な問診で疑われる食品を食べた際の症状の有無を確認することです。まずは症状が出現した際に食べた物、またその中に含まれる成分、疑われる食品のこれまでの摂取状況を確認します。また、食後の運動や服薬など、症状が出やすくなる要素がないかの確認を行います。
その後、血液検査での抗原特異的IgE抗体価測定、皮膚試験(プリックテスト)を行い、疑われる食品による感作の有無を確認します。
Q2 即時型食物アレルギーではどのような症状が起こりますか?また、症状の重症度はどのように評価すれば良いですか?
食物アレルギーによって引き起こされる症状は様々で皮膚、呼吸器、消化器、循環器、神経などに症状が出現します。ほとんどの場合、摂取して2時間以内に症状が出現します。
即時型食物アレルギーの重症度は、臓器ごとに下記の重症度分類を用いて評価を行っていきます。
・皮膚症状:発赤、蕁麻疹、掻痒感などが出現します。部分的な蕁麻疹や自制内の軽い搔痒は軽症(グレード1)、範囲が広がり全身性になった場合や自制外の強い搔痒は中等症(グレード2)と判断します。
・消化器症状:口腔咽頭症状と、腹痛・嘔吐・下痢などの症状に分けられます。口腔咽頭症状も症状が強い咽頭痛であれば、中等症(グレード2)と評価します。また、弱いの腹痛や嘔気・単回の嘔吐/下痢は軽症(グレード1)と評価しますが、腹痛が強い場合(自制内)や複数回の嘔吐・下痢があれば中等症(グレード2)と、腹痛が自制外となった場合や繰り返す嘔吐・便失禁があれば重症(グレード3)と評価します。
・呼吸器症状:鼻閉、くしゃみなどの上気道症状と咳嗽、喘鳴、呼吸困難などの下気道症状が出現します。鼻汁・鼻閉・くしゃみなどの上気道症状や、間欠的な咳嗽は軽症(グレード1)と評価します。咳嗽が断続的となってきた場合や聴診上の喘鳴が出現した場合、患児が軽い息苦しさを訴えた場合は中等症(グレード2)と判断します。それ以上の症状(重症)が出現した場合は、速やかにアドレナリンの筋肉注射や酸素投与を行います。
・循環器症状:末梢血管収縮、頻脈といった代償性ショック症状が出現し、進行すると低血圧性ショック、場合によっては心停止を引き起こします。
・神経症状:活動性の低下から始まり、重症となると意識障害を引き起こします。

さらに詳しく「食物によるアナフィラキシーの臨床的重症度」
アナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会)

Q3 アナフィラキシーとは何ですか?
アナフィラキシーは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義されます。重症度分類のグレード3(重症)の症状を含む複数臓器の症状、グレード2(中等症)以上の症状が複数ある場合はアナフィラキシーと診断されます。
Q4 血液検査やプリックテストを行うときに、抗ヒスタミン薬や吸入ステロイド薬などを中止する必要はありますか?
血液検査を行う際は、抗ヒスタミン薬を中止する必要はありません。
プリックテストに関しては反応を減弱させる可能性があるため、第1世代抗ヒスタミン薬は2日以上、第2世代抗ヒスタミン薬は3-7日間投薬を中止します。ステロイド軟膏・プロトピック®などの外用薬を使用していない部位を検査を行う際は選択します。また、長期(3週間以上)に連用した場合は1週間程度の中止が望ましいです。
吸入ステロイドはどちらの検査でも中止する必要はありません。
Q5 食物アレルギーを疑ったとき、どの特異的IgEを検査すればよいですか?
原因と考えらえる食物の特異的IgE検査に加えて、コンポーネント特異的IgE検査を実施することでより精度の高い診断が可能となります。
現在保険適用されているコンポーネント特異的IgE検査で、診断に有用なものとしては

  •  ・鶏卵アレルギー: オボムコイド (Gal d 1)
  •  ・小麦アレルギー: ω-5グリアジン (Tri a 19)
  •  ・大豆アレルギー: Gly m 4
  •  ・ピーナッツアレルギー: Ara h 2
  •  ・カシューナッツアレルギー: Ana o 3
  •  ・クルミアレルギー: Jug r 1

 

などがあります。また花粉症患者が野菜や果物を生で食べた際に口腔内の掻痒感や違和感を生じる、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)は、花粉症の原因物質と交差抗原性を持った物質が果物等の食物に含まれるため起こります。そのためこのような症例に対しては、花粉の特異的IgEを検査する必要があります。
例えば、リンゴ、モモ、サクランボなどのバラ科の果物を生で摂取した際に口腔内違和感を生じる場合はカバノキ科花粉によるPFASを考え、ハンノキ花粉・シラカンバ花粉(関東・東海以北)を測定します。トマトで症状が出る場合はスギ花粉との交差反応を、メロン・スイカなどウリ科の食品で症状が出る場合はイネ科のカモガヤ花粉とキク科のブタクサ・ヨモギ花粉などの測定を考慮します。

Q6 特異的IgEの検査結果をどのように保護者に説明すれば良いですか?
特異的IgE抗体検査は感度は高いですが、特異度が低く、しばしば偽陽性となります。また、同じ抗体価でも患者の背景によって症状が出る確率は異なり、解釈に注意が必要です。
プロバビリティカーブにより特異的IgE抗体価から症状誘発の可能性をある程度予測できますが、最終的な診断には食物経口負荷試験が必要であることを保護者には説明する必要があります。
さらに詳しく「各種検査の特徴と適応」
Q7 特異的IgG検査は食物アレルギーの診断に使用できますか?
米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では食物アレルギーにおける特異的IgG抗体の診断的有用性を公式に否定されています。
その理由として

  1.  ・食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体であること
  2.  ・食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しないこと
  3.  ・血清中の特異的IgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけであること

が挙げられています。
特異的IgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招く恐れもあるとされています。
特異的IgG抗体検査の診断的な価値は認められていないため、検査陽性だからといって短絡的に食物アレルギーと診断することは危険です。

「血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起 (日本アレルギー学会)」

Q8 食物アレルギーの診断が付いたとき、交差抗原性があり、注意が必要な食べ物はありますか?
牛乳は、水牛やヒツジ・ヤギなどの乳との間に約90%のアミノ酸配列の相同性があり、交差抗原性を示します。しかし、牛肉とは抗原性が異なるため、基本的に除去を行う必要はありません。(栄養指導の手引き 17ページ)
魚卵では、イクラとタラコには交差抗原性があり、双方の感作を認めることは多いですが、魚卵類をひとくくりにして除去する必要はありません。また、魚卵と鶏卵の間には交差抗原性はありません。
魚では、主要アレルゲンのパルブアルブミンは魚種間で60-90%のアミノ酸配列の相同性を認めます。魚種ごとに摂取可能かどうかを確認する必要があります。(栄養指導の手引き 24ページ)
甲殻類は、アレルゲンとしてトロポミオシンがあり、エビ、カニ間でのアミノ酸配列の相同性は90%と高いです。実際にエビアレルギー患者の65%はカニにも症状を示しますが、甲殻類もひとくくりにして除去する必要はありません。(栄養指導の手引き 25ページ)
ナッツ類は、クルミとペカンナッツ(ともにクルミ科)、カシューナッツとピスタチオ(ともにウルシ科)の間には強い交差抗原性があり、どちらかにアレルギーがあれば両者を除去する必要があります。(栄養指導の手引き 26ページ)

さらに詳しく「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2017 原因食物別の栄養食事指導」

Q9 食物アレルギーの症状出現時にはどのような薬剤を使用すれば良いですか?
皮膚症状・口腔内症状に対しては、ヒスタミンH1受容体拮抗薬の内服を、呼吸器症状に対しては気管支拡張薬(β2刺激薬)吸入・酸素投与を、消化器症状に対しては補液を検討します。追加治療が必要な場合は、副腎皮質ステロイドの内服・静脈注射を考慮します。
中等症でも治療に反応しない例や重症例はアドレナリン投与の適応となります (0.01mg/kg, 1回最大量: 12歳以上 0.5mg、12歳未満 0.3mg)。または、アドレナリン自己注射液(エピペン®)を携帯している際には速やかに使用します。
さらに詳しく「症状出現時の薬物療法」
Q10 どのような時にエピペン®を処方すれば良いですか?
下記のような症状の既往がある症例や、アナフィラキシーを発現する危険性が高い症例、医師が必要と判断した場合には処方することが勧められます。この表はアナフィラキシーガイドラインのグレード3(重症)と対応しています。
エピペン®は登録医によって処方が可能です。