実践編
基本的な考え方
⾷物アレルギーの管理・治療の原則は「正しい診断に基づいた必要最⼩限の原因⾷物の除去」である。特異的IgE抗体検査または⽪膚プリックテストから原因と疑われ、除去している場合には、必要に応じてOFCを実施し、診断および⾷べられる量を確定することが重要である。重篤な誘発症状のリスクがあるなど、⾃施設でOFCを実施することが難しい場合には、積極的に専⾨の医療機関に紹介することを推奨する。
原則として除去不要な食品
原因⾷物が確定している場合でも、表9の⾷品は原則として除去不要である。ただし、⼀部の重症例では症状が誘発されることがあるため、OFCを実施し摂取可否を確認しても良い。
自宅での摂取が考慮できる場合
下記の場合は、OFCではなく、⾃宅で当該⾷物を摂取させることを考慮できる。具体的な⾷品や調理⽅法、摂取量を指⽰すると良い。ただし、患者や保護者の不安により⾃宅で摂取が難しい場合にはOFCを⾏う。
- 当該⾷物を症状なく摂取できていた⾷物抗原が感作陽性の場合
- 原因と疑う⾷物の特異的IgE抗体検査または⽪膚プリックテストが陰性の場合*
*消化管アレルギーでは特異的IgE抗体検査または⽪膚プリックテストが陰性となる場合がある
実施する医療機関の選択
⾷物摂取に関連した病歴、⾷物の種類、特異的IgE抗体価、原因⾷物の摂取状況をもとに実施する医療機関を選択する(図3)。
完全除去例の場合
微量・少量の原因⾷物が摂取可能な症例の場合
アナフィラキシー既往例は、⽇常的に実施している医療機関または専⾨の医療機関での実施を推奨する。
総負荷量の選択
※特異的IgE抗体価(sIgE)はImmunoCAP法を基準とした。
完全除去例の場合
(1)⼀般の医療機関
原則として少量
(2)⽇常的に実施している医療機関
【ピーナッツ・⽊の実類】
- 原則として総負荷量は「少量」とする。
- アナフィラキシーの既往がある場合には、専⾨の医療機関への紹介を考慮する。
微量・少量の原因⾷物が摂取可能な症例の場合
⼀般および⽇常的に実施している医療機関
- 症状なく摂取できる原因⾷物の量より多い総負荷量を設定する。例)少量の原因⾷物が摂取可能→ 中等量のOFC
例)中等量の原因⾷物が摂取可能→ 必要に応じて⽇常摂取量のOFC - 中等量のOFCは、総負荷量をいくつかの段階に設定し、少ない総負荷量から段階的に増量し実施することもできる。
試験当日の流れ
表10 試験当⽇の流れ
試験開始前 |
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OFC前4時間程度は⾷事を控える。ただし、乳児や幼児の場合には軽めの⾷事(ミルクや⺟乳を含む)は可能である。 開始前に医師が診察し、下記の「OFCを中⽌すべき状況」に当てはまる患者は、OFCを延期する。
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試験開始時 |
負荷試験⾷、総負荷量、分割⽅法を確認する。 バイタルチェック(⾎圧、脈拍、酸素飽和度)を⾏う。 |
試験中 |
負荷試験⾷を摂取させる。 摂取後はベッド上や椅⼦などで安静を保つ。 症状が出現していないか定期的に診察し、記録する。 定期的にバイタルサインを確認する。 |
判定と治療 |
グレード2以上の明らかな症状が出現した場合には「陽性」と判断し、試験を中⽌し、すみやかに治療を⾏う。必要な場合には⼆次医療機関へ搬送する。 グレード1に相当するような軽微な症状や主観的な症状の場合は、⼀旦、試験を中断し症状が重症化しないか慎重に観察する。症状が消失した後に、慎重に試験を再開することもある。最終的に軽微な症状のみであった場合には「判定保留」と判断する。 |
終了後 |
医師が試験の結果を説明する。症状が出た場合には、症状の重症度や治療内容についても説明する。 結果に基づき、⾃宅での原因⾷物の摂取について医師または管理栄養⼠が⾷事指導を⾏う。 |
試験後の食事指導
OFCを⾏った場合は、その結果を受けて⾃宅での摂取量について⾷事指導を⾏う。
※詳細は「⾷物アレルギーの栄養⾷事指導の⼿引き2017」を参照
⾷物アレルギーの栄養⾷事指導の⼿引き2017
陽性の場合
(1)完全除去例への⾷物経⼝負荷試験
- 少量のOFCで陽性の場合除去継続し、1年後を⽬安に再度のOFCを検討する。
微量でOFCが陽性の症例、OFCによりアナフィラキシーが誘発された症例、少量のOFCが繰り返し陽性の症例は専⾨の医療機関への紹介を考慮する。 - 中等量のOFCで陽性の場合少量、または症状を誘発した量より少ない総負荷量でのOFCの実施を考慮する。
(2)少量または中等量が摂取可能な症例への⾷物経⼝負荷試験
- OFC実施前までの摂取可能量を継続し、半年〜1年後を⽬安に、再度のOFCを検討する。
陰性・判定保留の場合
- 総負荷量を超えない範囲までを「⾷べられる範囲」とし、⾃宅でも症状が出現しないことを確認する。
- 「⾷べられる範囲」を確認後、タンパク質量が総負荷量を超えない範囲までの加⼯⾷品についても、許容量を具体的に⽰し摂取させることができる(表11〜13)。
- ⾷品によって含まれるタンパク質量は異なるので、「⾷べられる範囲」は⾷品毎に判断するのではなく、タンパク質量で判断する。
- タンパク質は加⼯や調理により変化することがあり、同じタンパク質量であっても抗原性・症状の出やすさが異なることがあるため注意が必要である。
- 加⼯⾷品は商品間のバラツキ(製造⽇、販売地域の違いや原材料の規格変更など)があるため、実際に購⼊した商品によりタンパク質の量が異なる可能性がある。
- 安全性を配慮し、許容量は「⾷べられる範囲」の上限より少なめに設定すると良い。
- 患者本⼈や家族の不安が強いなど、何らかの理由で「⾷べられる範囲」の⾃宅での摂取が進まない場合には、管理栄養⼠による栄養⾷事指導を受けられる⽇常的に実施している医療機関または専⾨の医療機関への紹介を考慮する。
- 少量のOFCで陰性の場合には、⾃宅でも症状が出現しないことを1〜数か⽉間確認した後、中等量のOFCの実施を考慮する。
除去解除の判断
- 最終的に⽇常摂取量を⾷べられることが確認できれば除去解除とする。
- 学校給⾷における除去解除は実際に給⾷で提供される量を⽬安とする。
- はじめは⾃宅のみで除去解除とするが、体調不良や⾷後に運動した場合などを含め原則半年間以上症状が誘発されないことを確認できれば、学校など⾃宅以外でも除去解除とする。
鶏卵のタンパク質(アレルゲン)は加熱による変性が⼤きく、加熱時間、加熱温度、材料の鶏卵の量によって症状の出やすさが⼤きく異なるため、⾷べられる範囲を広げていく際には⼗分な注意を要する。