管理・治療
食物アレルギーの管理・治療は臨床型、病態により異なるため、個々の患者の状態を把握した上で臨床的状況および社会的環境に合わせた指導を行う。
乳幼児期
小児の耐性獲得を目指す食物アレルギーの診断・管理のフローチャート
- 鶏卵・牛乳・小麦・大豆などが原因の乳幼児期の食物アレルギーは耐性獲得する可能性が高い。
- 耐性獲得を目指し、食物除去を必要最低限にし、可能な範囲で原因食物を摂取する指導を行う。
食物経口負荷試験の結果に基づいた食事指導
結果が陽性の場合(症状が出た場合)
(1)完全除去例へのOFC
【少量のOFCで陽性の場合】
- 除去を継続し、1年後を目安に再度OFCを検討する。
- 再度OFCを行う場合には、前回のOFCにおける誘発症状を判断材料として、より少量の総負荷量に設定した微量のOFCを考慮する。
- 微量でOFCが陽性の症例、OFCによりアナフィラキシーが誘発された症例、少量のOFCが繰り返し陽性の症例は専門の医療機関への紹介を考慮する。
【中等量のOFCで陽性の場合】
- 少量、または症状を誘発した量より少ない総負荷量でのOFCの実施を考慮する。
その他の注意点
- 食物除去実施上の注意
- 母子手帳を利用して成長曲線を経過観察し、成長発達をモニターしていくこと。食物除去を中止できる可能性を常に考慮する。
- すでに感作が成立している食物を初めて食べさせるときには、OFCに準じる注意が必要である。
- 保育所・幼稚園・小学校入学前には、食物アレルギーが疑われ未摂取の食品に関してOFCを行い、確定診断しておくことが望ましい。
学童期/青年期
- 学童期まで遷延した鶏卵・牛乳・小麦などの食物アレルギーは12歳までに半数程度が耐性獲得する。Kubota K, et al. Pediatr Allergy Immunol 2023;34:e14064Taniguchi H, et al. Int Arch Allergy Immunol 2022;183:14-24
- 血液検査等を参考にOFCを実施し、症状が誘発されない安全に食べられる可能な範囲で原因食物を摂取する指導を行う。
- 甲殻類・そば・ピーナッツ・木の実類などを原因とする食物アレルギーは耐性獲得しにくい。
- 乳幼児期発症の場合には上記食物であっても耐性獲得することがあり、血液検査等を参考にOFC実施を考慮する。
成人移行支援/両立支援
- 食物アレルギーの子どもが、成人期にシームレスな移行ができるように、ライフステージに合わせた段階的、計画的な支援が必要である。
- 支援の基本は、食生活において患児が自律と自立を獲得できるよう、保護者・患児ともに関連したヘルスリテラシーを高めることにある。
臨床型・病態ごとの特記事項
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
- 運動の2〜4時間前は原因食物の摂取を禁止する。原因食物の完全除去や過度な運動制限にならないように注意する。
- 運動以外の誘因(疲労、ストレス、月経前状態、NSAIDs使用、アルコール摂取、入浴など)により症状が誘発されることがあるため注意する。
花粉-食物アレルギー症候群
- 起因となるアレルゲンにより臨床症状が異なる。
- PR-10やプロフィリンが原因アレルゲンの場合には、加熱や加工処理した原因食物は症状なく摂取できることが多い。一方、GRPが原因アレルゲンの場合には、原因食物を含むすべての食品の除去が必要なことが多い。
- 原因花粉への曝露により、季節性に強い食物アレルギー症状をきたしやすくなるので、注意を促す。Hansen S, et al. J Chromatogr B Biomed Sci Appl 2001;756:19-32Minami T, et al. J Allergy Clin Immunol Pract 2015;3:441-2
ラテックス-フルーツ症候群、調理業従事者における職業性食物アレルギー、 化粧品使用に関連した食物アレルギー
- 発症の原因となったアレルゲン曝露(職業性アレルゲン曝露、原因化粧品の使用など)を回避することによって、数年の経過で食物アレルギーが寛解することがある。
病診連携
- 専門医への紹介のタイミングは「図4・図5 食物アレルギー診断のフローチャート」を参照
- 自施設でOFCが実施できない場合、近隣の実施医療機関と病診連携し、積極的に患者を紹介する。「表12 実施する医療機関の分類と役割」「図6 実施する医療機関の選択」を参考にし、リスクのある症例は専門の医療機関へ紹介することが望ましい。
- 日本小児科学会専門医研修施設におけるOFC実施状況は「食物アレルギー研究会ホームページ」で検索が可能である。
栄養食事指導
食物アレルギーの栄養食事指導は診療と並行して下記指導項目に基づき継続的に行う。なお、栄養食事指導には管理栄養士※が関与することが望ましい。
- 除去すべき食品、食べられる食品など食物アレルギーに関する正しい情報を提供する。
- 除去食物に関して摂取可能な範囲とそれに応じた食べられる食品を示す。
- 過剰な除去に陥らないように指導し、食物アレルギーに関する悩みを軽減、解消する。
※食物アレルギーに関する管理栄養士の資格として、小児アレルギーエデュケーター(日本小児臨床アレルギー学会)、食物アレルギー管理栄養士・栄養士(日本栄養士会)がある。
詳細は「食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022」を参照
指導のタイミング
- 診断後(完全除去、部分解除、完全解除時)
- 患者(保護者)から食事に関する相談を受けたとき
- 定期的な食事指導(除去解除できるまで)
指導のポイント
- 必要最小限の除去の考え方
- アレルゲン性について (加熱、発酵による変化)
- アレルギー物質を含む食品表示について
- 栄養面での代替のための具体的な食品 (特に牛乳アレルギーの場合のカルシウム補給)
- 調理上の注意点
指導時の留意点
- 食物アレルギー発症や悪化を心配して離乳食の開始を遅らせる必要はない。
- 小麦アレルギーの醤油、大豆アレルギーの醤油・味噌等、以下の表に示すものは多くの患者が摂取できる。患者の生活の質の向上のためにも、除去指示する場合は慎重に行なう。
- 栄養食事指導を受けていても、牛乳を除去している場合はカルシウムが摂取量に達しないことが多いので、牛乳アレルゲン除去調製粉乳等で代用することが重要である。池田有希子 他. 日本小児アレルギー学会誌 2006;20:119-26
- 食物アレルギーの栄養食事指導料については、9歳未満の患者に対して、保険点数初回月1回260点2回目以降200点の診療報酬が得られる。
経口免疫療法
定義
経口免疫療法(OIT)とは、「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前のOFCで症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで継続的に経口摂取させ、脱感作状態や持続的無反応の状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療」をいう。
食物アレルギー診療ガイドライン2021
経口免疫療法の問題点
- OIT自体の問題点と診療体制の問題点がある(表17)。
- 症状誘発の閾値が不明、もしくは低い症例に、OITとしてではなく、自宅で増量する指導を行うことは症状誘発リスクが高いため、安易に行うべきではない。
経口免疫療法施行のための条件
- OIT施行のためには、施設及び医師に必要な条件を満たす必要がある(表18)。
- OITは安全性への十分な配慮を要するため、高度で専門的な知識を有する医師が一定の条件下で施行する必要があり、食物アレルギーの一般診療としては推奨されない。
食物アレルギー診療ガイドライン2021
- 用語解説
- OIT
- oral immunotherapy
食物アレルギー患者への薬物投与
- 乳糖は散剤の調合に用いられたり、各種薬剤(吸入薬、カプセル、錠剤、散剤、静注用製剤など)に添加されており、非常に感受性の高い牛乳アレルギーの患者に対して稀に症状を誘発することがある。特に静注用製剤(ソル・メドロール静注用40mg)は注意が必要である。
- 漢方薬の中には小麦、ゴマ、モモ、ヤマイモ、ゼラチンなどを含むものが存在するので、注意が必要である。
- インフルエンザワクチンは、鶏卵アレルギー患者の重症度に関わらず接種可能である。AAAAI Egg Allergy and the Flu Vaccine
- 各薬物の添付文書情報は「医薬品医療機器情報提供ホームページ」より検索が可能である。